平 原当麻「ライナスと毛布」

SDIM0018

僕のふるさとのはなし

苫小牧市の民家の庭先でナイフを手にした男たちが、息絶えたヒグマを器用に解体し始めた。ビニールシートの上で食用の肉を取る光景を近所の人も珍しそうに見守る。10月9日夕にJR千歳線の沼ノ端—植苗駅間で列車にはねられ、猟友会関係者が引き取った体重約250キロの雄だ。

「脂肪が少なく、痩せている。冬を前に盛んに食べて体を太らせる時季なのに」。解体の手を休めた1人のつぶやきを耳にし、記者も山の実なりの悪さを想像した。

今年はヒグマが列車にひかれる事例が多発した。捕獲数も極めて多い。好物のドングリの不作などで、餌探しのため人の生活圏へ頻繁に出没する個体が増えたため、とみられている。

-中略-

ヒグマは畑の作物や果樹の実など人里の味を覚えると、それに固執し、大胆な行動を取りやすくなることが知られている。人里への侵入を繰り返すうち、人への警戒心も薄くなる。加えて春グマ駆除が廃止になった1990年以降、捕獲圧の低下で人を恐れない若い個体が増えたともされる。

この話に納得のいくような出来事が9月12日、千歳市桂木の住宅街で起きた。写真家の服部冬樹さんが午後8時半ごろ、自宅の玄関を開けたところ、風除室の前にヒグマがいた。だが、逃げる気配を見せず、顔を上下に揺らし匂いをかぐしぐさを続けている。風除室の薄いガラスを隔てて距離は1メートルもない。約30秒間じっと見ていると、おもむろに立ち去り、庭の闇の中に消えた。
「換気扇から漏れ出た料理の匂いに誘われたのか」と服部さん。庭木のナシを食べた跡もあった。

千歳では10月、市街地で目撃が相次いだ。市クマ防除隊が街の中で見つけたふんを調べると、コクワの実ばかり入っていた。

苫小牧日報