2016.04.11 - 2016.04.24

北野 謙 Ken KITANO
Reflect

北野 謙 Ken KITANO「Reflect_1」

RED Photo Gallery 企画展

オープニングトーク: 4.11(mon) 19:30 〜
山地裕子(清里フォトアートミュージアム 学芸員) × 北野謙
20:30 〜 オープニングパーティ入場無料 (パーティ参加費 500円)

Reflect

2011年3月11日の東日本大震災のあと、僕はしばらくカメラを向けるべきリアリティのある被写体を失った。人や、人が作ってきたいろいろなものが一瞬のうちに壊れて、消えてしまうのを(メディアを介して)目の当たりにした後の虚無感。どんな表現でも誰かを傷つけてしまう可能性が潜んでいるもの、そう知りつつも、作品を制作することにためらいも感じた。(表現ばかりでなく読んだり考えたり、聞くこと話すことがそれ以前とずいぶん違う重さになった。)そんな状況の中で太陽の光は僕にとって数少ない世界を見る手がかりだった。

2012 年に都内の各所に立ち、手鏡を持って太陽光のリフレクションを撮るセルフポートレイト撮影をした。自分自身は脆い存在でも数万年後もほぼ同じ位置に変わらずにある太陽。(黒点や電磁波、小氷期など活動の変化はあるけれど。)太陽の光と自分を一緒に撮る。僕にしては珍しく意気込んで、古着だけどヴィヴィアン・ウェストウッドのピンク色のジャケットを買って撮影にのぞんだ。

小さな鏡ひとつで強烈な太陽光とツーショットを撮ることができる。手の中の宇宙。写真の不思議。ささやかな写真体験は僕が〈宇宙の中にいる〉ことを体感させてくれる。厳しい現実と抱えてしまった虚無感は変わらないけど、少し前が見えて明るい気持ちになった。今回はその時撮った写真にこの冬撮り下ろした写真を加えて展示する。

2013年に文化庁からグラントを頂いてカリフォルニアに1年滞在することになった。カルフォルニアでは太陽光と人間社会のモニュメントやシンボルを一緒に長時間露光する“day light”シリーズを制作した。それまで僕はポートレイトのシリーズを作り続けてきた。それがこの撮影以降太陽や宇宙のことに関心が広がっている。今も新たに複数の場所で同時に太陽を撮影する作品「光を集めるプロジェクト」も制作中だ。

一方で肖像も続けている。一昨年は香港の中心部を占拠した雨傘革命の人々を、昨年は国会前で安保法案に反対する人々を撮影した。デモクラシーや人の存在と太陽や宇宙。日常的には遠いこれらふたつをちょっとずつ写真で近づけられないかと思っている。

北野 謙 2016年2月

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プロフィール

1968年東京都生まれ。1991年日本大学生産工学部卒業。
1999年から世界各地の文化も習慣も立場も異なるさまざまな共同体の数十人の肖像を暗室で多重露光して1枚の写真に焼き付ける「our face」シリーズをスタート。3.11東日本大震災以降、太陽をモチーフにしたシリーズにとり組んでいる。

主な個展
2015年「our face-prayers」(PACE/MacGILL gallery、ニューヨーク)
2015年「Now, Here, and Beyond」(ROSE GALLERY、ロサンゼルス)
2013年「our face:Asia」 (MEM)
2010年「our face」( 三影堂撮影芸術中心 、北京)
1994年 「溶游する都市」 I.C.A.C.ウェストンギャラリー(東京)など

主なグループ展
2016年「エッケ・ホモ-現代の人間像を見よ-」(国立国際美術館)
2011年「日本の新進作家展 vol.10 写真の飛躍」(東京都写真美術館)
2006年「写真の現在3-- 臨界をめぐる6つの試論展」(東京国立近代美術館)
2004年 「第16回写真の会展」(楢橋朝子氏と二人展) PLACE M など

2013年に文化庁新進芸術家在外研修員として1年間アメリカに滞在、2011年に東川賞新人賞、第14回岡本太郎現代芸術賞特別賞、2007年に日本写真協会新人賞、2004年に写真の会賞を受賞