2016.11.14 - 2016.11.20

西村勇人 Hayato Nishimura
宇宙は数学の言葉で書かれている

西村勇人 Hayato Nishimura「宇宙は数学の言葉で書かれている_1」

西村勇人 Hayato Nishimura「宇宙は数学の言葉で書かれている_2」



『宇宙は数学の言葉で書かれている』

 これまで自然科学における多様な分野の研究者や、彼らと取り巻く研究現場との関係性に着目した取材を行ってきたなかで、ある理論物理学者から「理論屋の研究には、実験器具や実験装置は必要ない。重要なのは、アイデアをぶつけ、具現化する議論の場だ。理論屋にとって、黒板は『加速器』だ」と伺い、黒板を用いる科学の営みに強く興味を持った。

 数式や図で満たされた黒板は、専門外の人間の理解を寄せつけず、ある種の秘術の痕跡のように感じられる。しかし、その痕跡は、秘められた真理を究め、それを数学の言葉で普遍化しようとする研究者の思考の所産にほかならない。黒板は、数学や数理的手法を用いる科学の分野において、そのプロセスに強く結びつく極めて重要な基盤である。

 今回の展示の撮影場所は、すべて東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の研究棟である。Kavli IPMUは、世界中から数学、物理学、天文学の研究者が集い、異分野融合により暗黒エネルギー、暗黒物質、統一理論(超弦理論や量子重力)といった宇宙の根源的な謎の解明に取り組む研究所である。

 Kavli IPMUの研究棟には、研究者の居室やセミナールームだけでなく廊下、ロビーなどにも黒板が設置されており、あらゆる場所でアイデアを記述し、議論する場が整っている。1階廊下には、約15mのおそらく世界一長い黒板が設置されており、Kavli IPMUの黒板への強いこだわりが感じられる。機構長室の黒板は、日本とアメリカを行き来しつつ世界の素粒子理論分野をリードする村山斉機構長の板書で満たされている。3階の共有スペース「藤原交流広場(ピアッツァ・フジワラ)」では、毎日午後3時のチャイムとともに、すべての研究者が集まって思い思いに議論を始める「ティータイム」が行われており、自由かつ無国籍な雰囲気のうちに知の臨界が生じると感じられた。なお、この吹き抜けの共有スペースに立つ柱には、Kavli IPMUの設立理念を表すガリレオ・ガリレイの言葉”universo é scritto in lingua matematica(宇宙は数学の言葉で書かれている)”が記されている。

 なお、撮影にあたっては、東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構の方々のご協力とご理解を得ました。


■プロフィール
 西村勇人 にしむらはやと
 1977年 島根県生まれ

■主な個展
 2011年「From the Lab Bench」M2 Gallery(東京)
 2012年「根ノ国」M2 Gallery(東京)
 2012年「No Curiosity, No Life」コニカミノルタプラザ(東京)
 2013年「No Curiosity, No Life」函館市地域交流まちづくりセンター(北海道)
 2014年「Transitions」M2 Gallery(東京)
 2014年「Cool Physics」MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w(京都)
 2016年「Thinkings」MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w(京都)
 2016年「Polaroid-blue」The Palace Side Hotel(京都)
 2016年「Passage」RED Photo Gallery(東京)

■主なグループ展
 2010年「visible and invisible -photography-」MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w(京都)
 2013年「これからのそれから...And Then」MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w(京都)
 2015年「Spectrum」:大坪晶との二人展 M2 Gallery(東京)
 2015年「Spectrum」:大坪晶との二人展 Bloom Gallery(大阪)